嘘をつこう

誰かの事を、こんなにも羨ましく思ったのは久しぶりだ。
僕はずっと憧れで生きてきた。あの人のようになりたい。あんな事を言ってみたい、してみたい。そんな事を言われてみたい、してみたい。あぁ、そう言われたらそんな表情をすればいのか、その台詞には、こう返せばいいんだな…わかった、用意しとくよ。でも、ところでその表情って?いや、いいんだ。でも、どうしたらそんなふうに振返らせる事が?もう少し並んで歩いてくれてもいいんじゃない…?って、この曲は、誰?懐かしい。
俺は何もできないと思ってた。何一つだ。そんなことないんじゃないだろうかなんて、少しでも思えるようになったのはここ何年かの話だよ。だからくだらない事にも敏感に、ひたすらに憧れてきたせいか、結構なものを手に入れた気がしてる。おぉ、実際にこんなこと言われることあるんだな、とか、俺こんなこと言ってるよ、あぁこれってあの場面だな。なんて。そう思うハードルが低いのか、そんな事考える事すらおかしいのか。でも、必死な時は全くそんな事考えられない。夢中な時も幸せな時も考えられない。そのときには頭を働かせるなんてできないな。思い返すと、あれ?あれってあれじゃん、みたいな。いや、いつだって考えてないのか。思い返してるだけなのかも。
人生なんて演技のかたまり。あたしの前田と演技してない?作ってるでしょだって?そう見えるの?ホントの俺がみたい?ホントの俺って何だよ。お前に見せてる俺と、お前以外見せている俺はそりゃ違うよ。当たり前だろ?誰に対しての俺だって違うよ。自分自身に対してだって。俺が俺に対して感じている俺がお前が見たい俺なのか?お前が求めている俺は誰に対しての俺でもないよ。そもそもそんな俺なんてそれこそ俺なんかじゃないんだよ。そんなの意識してないんだからさ、お前が見てる俺が俺自身だよ。お前の前でそうなるのが俺。そうじゃなかったら何がなにやらわからないだろう?それともお前はそんなに器用なの?意味わかんない?そう。本当だとしたら羨ましいよ。
今日、すごく惨めな気分になった。そんな事にすら、僕は憧れていた気がした。
きっと僕は、意味のないものを書く事が好きなんだな。
もう、どっちだっていいよ。
嘘は、大嫌いだ。