夢の果て

ケーキ屋さんに行って来た。
最寄り駅から店までの道を歩きながら、少し昔のことを思い出していた。
僕の中にあった少しの可能性に、光と、自信を与えてくれたのは彼女だった。
僕は彼女のために色々なものを分かりたかったし、なにより格好良くなりたかった。
自信を持って隣を歩くため、自身を持って、隣を歩いてもらうために。
道から店の中が見え、彼女と目が合う。変わっていない様に見えた。でも、遠かったな。あぁ、もう僕らの線は交差し終わっているんだって理解した一瞬。
その通りさ。二人の距離は今、僕が感じているように、これくらいのもので間違いないよ。手も届かなければ、突き放されもしないんだ。お互いがお互いの方を向いていない。まして、同じ方向ですらない。そしてそれが正しく、成立してる。
僕の相変わらず平凡な口が選んだ言葉は「ひさしぶり」だ。「元気だった?」「どうしてた?」「俺も楽しくやってるよ」。要約すればこんなとこ。もうこの子との間に偶然は起こらないだろう。もう、必要じゃないんだ。ありがとう、君は僕にとってのピストーリウスともいえる存在だったのかもしれないね?最近本で読んだんだよ。まぁ、ピストーリウスと君の存在は全然違うんだけれども。たんに役割の話さ。
僕は、「ありがとう」と言って別れたいなんて思っていたけれど、やっぱり平凡に「おめでとう」と言った。「ありがとう」と言ったのは、彼女の方だった。
僕の「ありがとう」と意味は違う。それぐらいの距離。